4K HEVCエンコーダーやSI/QAMで
アイ・キャンの4Kコミチャンを実現

 
ケーブルテレビのアイ・キャン(山口県岩国市)は4月、4Kコミュニティチャンネルで高校野球県大会の生中継を実施した。
                  

月刊ニューメディア(2019年7月号掲載)

4Kコミチャンの映像をACASで制御して4K放送対応STBに送出するのは、来年の高度ケーブル自主放送開始まで待たなければならないが、地元市民のニーズに応えてなるべく早く4Kコミチャンを開始したかった同社は、ミハル通信の4K HEVCエンコーダーやSI/MUX QAM変調器などの機器とジャパンケーブルキャストのケーブル4Kプラットフォームを組み合わせたシステムを構築し、4K放送対応STBを使える4Kコミチャンを実現した。今後は他のケーブルテレビ事業者でも同じシステム構成で、4Kコミチャンを短期の準備期間で開始できるようになった(4Kコミチャンシステムを構成するミハル通信の各製品は、ケーブル技術ショー2019で展示される)。高校野球の4K生中継開始日に、アイ・キャンを現地取材した。

取材・文:渡辺 元・本誌編集長

アイ・キャン本社

アイ・キャン本社

球場にいるようにリアルな高校野球の4K生中継

リードを取り始めるランナー、キャッチャーのサインに頷くピッチャー、そしてバットを構え直すバッター──。投球直前の3人の緊迫した表情をアップで鮮明に捉えた映像が次々に表示された後、バックスクリーン側からの映像に切り替わり、ピッチャーが投球。「カキーン」という快音が響き渡り、スタンドから歓声が上がる。映像からは、選手たちが駆けるグラウンドの土や芝の質感だけでなく、外野席の背後に見える瀬戸内海から吹いてくる浜風の空気感も伝わってくる。4Kの高精細映像でしか捉えられない高校球児たちの顔のリアルな表情と、球場に足を運ばなければ味わうことができない五感で感じる野球の高揚感の両方を同時に楽しめるのは、4K生中継ならではだ。ケーブルテレビのアイ・キャン(山口県岩国市)は4月26日~28日、4Kコミュニティチャンネルで春季山口県高等学校野球大会の決勝大会を生中継した。放送したのは同市の「絆スタジアム」で行われた決勝大会全7試合(1日目4試合、2日目2試合、3日目1試合)。来年開始される高度ケーブル自主放送に先駆けて独自のシステム構成で生中継の4Kコミチャンを成功させるという快挙を達成した。

球場にいるようにリアルな高校野球の4K生中継

株式会社アイ・キャン 技術部部長・吉村満則氏(同社が4Kコミチャンで生中継した春季山口県高等学校野球大会決勝大会の1試合目が終わった直後の「絆スタジアム」で)

4KコースはHDコースに800円加えた月額料金で、2TBハードディスク付き4KSTBを使って新4K衛星放送やケーブル4K、そしてアイ・キャンが今年4月にサービスを開始した4Kコミチャンを楽しめる。株式会社アイ・キャン 技術部部長・吉村満則氏は、「4Kコミチャンはお客様に喜んでいただいています。高校野球生中継を弊社の番組表などで『絆スタジアムからの生中継はアイ・キャンにおまかせ』『高校野球 4K 完全生中継』などと告知したところ、『生中継するのなら加入します』『全試合やるのですか』といったたくさんのお問い合わせを実際にいただきました」と、高校野球の4K生中継への市民の関心の高さを語った。今のところ加入者の中で4Kコースに入っている人は、メーカーの4K STB供給の事情でまだ少ないが、「今後供給体制が整えば、どんどん4K STBを設置していきます」(吉村氏)という。

球場にいるようにリアルな高校野球の4K生中継

「絆スタジアム」に入場する決勝大会出場選手たち

球場にいるようにリアルな高校野球の4K生中継

「絆スタジアム」の一塁カメラ、球追いカメラ、実況席カメラなどの4K映像は
光回線でアイ・キャ ンに伝送し、同社の調整室でスイッチングした

そして4Kコミチャンの放送開始に備えて4Kコンテンツを揃えるため、4Kカメラや4K対応編集機材などを購入し、4K撮影を始めた。ドローンを使った4K撮影を行うため、社員のドローン講習会参加や免許の取得も進めていった。ところが昨年、4Kコミチャンのプロジェクトは壁にぶつかった。それは現行の仕様では、4Kコミチャンの映像をACASで制御して4K放送対応STBに送出できないという現状だ。とりあえず同社が制作した4K番組を全国サービスのケーブル4Kで放送することにしたが、それでは同社の地元に向けた番組は一日の中でわずかな時間しか放送されない。来年にはACAS制御で4K放送対応STBに送出できる高度ケーブル自主放送が開始され、この仕組みを使って4Kコミチャンを放送できるようになるが、なるべく早く4Kコミチャンを開始したい同社は、来年までは待てなかった。「そこで、もともと弊社のトラモジ系機器を全て入れてもらっていたミハル通信さんと、弊社がプラットフォームで契約しているジャパンケーブルキャストさんに、4K放送対応STBを使える4Kコミチャンはできないだろうかと相談しました」(吉村氏)

株式会社アイ・キャン 制作部制作課課長・浴本真司氏

株式会社アイ・キャン 制作部制作課課長・浴本真司氏

ジャパンケーブルキャストはSD放送とHD放送では、同社が提供するチャンネルとは別に各ケーブルテレビがコミチャンを放送できる自主放送枠があったが、4K放送には同様の自主放送枠は昨年の時点では提供されていなかった。しかし4K放送でも自主放送枠を作ることは技術的に可能であるという回答を得た。そして、それを実現する方法をミハル通信に相談したところ、ジャパンケーブルキャストのケーブル4Kのシステムを一部活用して4K放送対応STBを使える4Kコミチャンを実現するシステム構成を提示された。

ミハル通信の各種機器とケーブル4Kの仕組みで実現

そのシステム構成とは、アイ・キャンの4Kコミチャン映像を4Kビデオサーバ(4KAPC)からミハル通信の4K HEVCエンコーダーに送出、そこからのTSとジャパンケーブルキャストのケーブル4Kシステムで伝送されてきた自主放送枠のTSをミハル通信のSI/MUX機能内蔵QAM変調器(SI/MUX QAM変調器)で多重し、ジャパンケーブルキャストのケーブル4Kシステムであるミハル通信の高度JC-HITS TMに送出して、ケーブルテレビ伝送路を通して各加入者宅の4K STBに送り、4Kテレビに映すという仕組みだ(図)。
アイ・キャンはこのシステム導入を決めた。各メーカーの既存の4K APCはかなり高価なため、高スペックの汎用サーバを使用した独自の4K APCを地元のソフトウェア会社と開発した。そして昨年12月、ミハル通信鎌倉本社でジャパンケーブルキャストも参加して4K APCから4Kテレビまで一気通貫のテストに成功。「4Kコミチャンはこのシステムなら問題な くいける、という確証が持てました」(吉村氏)ジャパンケーブルキャストはこのシステムのために、従来のケーブル4Kの401チャンネルの隣に4K自主放送枠の402チャンネルを新設した。アイ・キャン、ミハル通信、ジャパンケーブルキャストなどの協力体制と努力で、ケーブルテレビ事業者が待望する4Kコミチャンが短期間で実現した。

【図】 アイ・キャンの4Kコミチャンシステム

【図】 アイ・キャンの4Kコミチャンシステム

ミハル通信のMGSRシリーズの4K HEVCエンコーダー

ミハル通信のMGSRシリーズの4K HEVCエンコーダー

ミハル通信のMDSRシリーズのSI/MUX QAM変調器、高度JC-HITS TM

ミハル通信のMDSRシリーズの
SI/MUX QAM変調器、高度JC-HITS TM

4K生中継を放送中のアイ・キャンの調整室

4K生中継を放送中のアイ・キャンの調整室

アイ・キャンで稼働中の4Kコミチャンシステム。「ミハル通信のヘッドエンドは、長いものだと15年くらい使っていますが堅牢です。同社の機器が原因ではない映像乱れ などが起こっても、広島にあるミハル通信の中国営業所からすぐに駆けつけていただけますので、大変助かっています」(吉村氏)

アイ・キャンで稼働中の4Kコミチャンシステム

このシステムで使用するミハル通信の4KHEVCエンコーダーは今年秋に発売予定で、現在はまだ試作機の段階だ。そのため、この試作機だけでなく各メーカーの既存のHEVCエンコーダーも前述のシステムに組み込んでテストを行った。「その結果、ミハル通信の4K HEVCエンコーダーは優れた性能であることが検証されましたので、まだ試作機でしたが導入することに決めました。ミハル通信の4KHEVCエンコーダーは12G-SDI対応がデフォルトであることも採用理由の一つです。他社の4K HEVCエンコーダーは3G-SDI×4がデフォルトで、12G-SDI対応はオプションでした。また、今回のシステムを構成するそのほかの機器もミハル通信製なので、HEVCエンコーダーも同一ベンダーにした方が障害時の切り分けなどの場合には適していると判断しました」(吉村氏)
このシステムは今年2月に開催されたケーブルテレビテクノフェア in Kansai 2019のミハル通信ブースで展示された。同社とアイ・キャンが共同で行ったデモ展示は、早期に4Kコミチャンを始めたいケーブルテレビ事業者の注目を集めた。そして今年4月、ついに4Kコミチャンの試験放送を開始。同社がドローンで撮影した周防大島や錦帯橋の桜など、4Kで撮影した地元の美しい風景を中心に放送し、4Kテレビユーザの加入者に好評を博した。そして4月26日、ついにキラーコンテンツである高校野球の4K生中継を開始したのだ。

他局も同じシステム構成で4Kコミチャンを提供できる

初日の2試合の生中継を無事にやり遂げたところでインタビューに応えてくれた株式会社アイ・キャン 制作部制作課課長・浴本真司氏は、「今回の4K生中継はミハル通信さんのおかげで実現しました。4K放送の実施は今のところ地上波民放さんではなかなか難しいと思いますので、ケーブルテレビ局ならではのサービスとしてこれからも実施していきたいと思います」と語る。今大会は市内の絆スタジアムで行われた決勝大会のみだが、全県下から勝ち抜いた学校が戦う決勝大会だけでなく、地元の学校が出場する地区予選にも市民の関心は高い。「弊社のエリア内には野球部のある高校が8校あり、どの学校も一生懸命頑張っています。秋の県大会は翌年の春の甲子園に向けた選考大会でもある大事な大会です。今のところ、秋の県大会地区予選が絆スタジアムで行われる予定で、それらの試合を重点的に4K生中継できたらと思います」(浴本氏)今回、アイ・キャン、ミハル通信、ジャパンケーブルキャストの協力体制でケーブル4Kを活用した4Kコミチャンの仕組みが実現したため、「今後、他のケーブルテレビ事業者も同じようにミハル通信の機器を揃え、ジャパンケーブルキャストのケーブル4Kのプラットフォームを利用していただくと、4Kコミチャンを開始できます」(吉村氏)。早期に4Kコミチャンを開始したいケーブルテレビ事業者は今回のシステムを導入し、来年以降に高度ケーブル自主放送が開始されてもこの方式を継続することができるだろう。

  
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